おはようございます。
今日はこちらの本を紹介します。
『ツナグ 想い人の心得』辻村深月*生者と死者の再会&使者の成長から優しい勇気をもらえる1冊
作品情報
著者:辻村 深月
発行年:2019年10月20日
出版社:新潮社
本の長さ:286ページ
あらすじ
一生でたった一人と一度だけ、死者との再会を叶えてくれる『使者(ツナグ)』。長年に渡り使者として生きてきた先代の祖母から、使者の役目を引き継いだ歩美。7年経って、会社員として就職した歩美のもとには、様々な想いを抱える依頼人がやってくる。顔も知らない父親を憎む若手俳優、歴史上の人物を敬愛する元教員、娘に先立たれた母親。彼らは前を向いて生きていくために、死者との再会を願う。そんな彼らの再会を仲介しご縁をつなぐ使者もまた、自身の人生のご縁を懸命につないでいく。連作長編小説・続編。
『依頼』のバリエーション
前作から引き続き、生者が会いたい死者との再会を使者に依頼するというスタンスは変わらないのですが、今作はそのバリエーションが増えた印象です。
一度も会ったことのない歴史上の人物に会うことを依頼する人物や、何度依頼しても再会を断られ続けている人物なんかもいました。
確かに長年使者をしていたら、そんな人たちも出てきて当然ですよね。
「え、そんな風に終わるんだ」と意外に思うエピソードもありました。
でも、どのお話もすごく自然な展開で、強引に結末を用意している感じが全くしない。
辻村さんが登場人物を動かしているんではなくて、登場人物たちが自分の意志を持って自然と動いている感じ。
登場人物が本当に生きて、考えて、動いて、話が展開しているように思います。
そういえば、『まなの本棚』での芦田愛菜さんと辻村さんの対談の中でも、「結論を先に出さずに、登場人物と一緒に悩みながら書き進めている」というようなことを言われていた気がします。
だからすごくリアルで、感情移入しやすかったです。
歩美の成長物語
前作は、ほとんどは依頼人が語り手となって話が進み、最終章のみ歩美が語り手となる構成でした。
ですが今作は、依頼人と歩美の両方がバランスよく語り手となるように書かれています。
むしろ、歩美目線が多め?
そのおかげで、歩美の人間味がぐっと感じられるようになっています。
生者と死者の仲介を通じて戸惑いや葛藤を感じながら、そして会社員として働く中での苦労や喜びも経験しながら、成長していく歩美が見られて嬉しかったです。
嬉しかったと言えば、前作はかなり残酷な結末を迎えてしまう依頼人がいましたが、今作ではどの依頼人にも優しい結末となっていたので、途中切ない場面はあったものの、最終的には温かい気持ちで読み終えられたのもよかったです。
ご縁をツナグ
読了後、続編刊行に際して辻村さんと松坂桃李さん(映画で歩美役を演じていた)が対談されたものを拝見しました。
特撮ヒーローを務める若手俳優の依頼人は、松坂さんの影響で生まれた設定なんですね(笑)
歴史上の人物に会いたいと願う依頼人も、映画のキャスト陣が「歴史上の人物なら誰に会いたい?」と話していたことを聞いて生まれた設定だとか。
娘に先立たれた母親のお話も、モデルとなる母娘がいらっしゃって、「この2人を会わせたい」という思いから生まれたお話だそう。
辻村さんの周りのいろんなご縁によって、この続編が出来上がった。
そう思うと、作家さんっていろんな人のご縁をツナグ素敵なお仕事だなぁと感じました。
いや、でもきっとどんなお仕事だって、人とのご縁がないと成り立たない。
どんな人生も、人とのご縁に支えられている。
つながる人とはつながるし、つながる必要のない人は自然と離れていく。
離れたように見えても、予期せぬタイミングでまたつながる時がくるかもしれない。
最終章の依頼人の言葉が胸にグッときます。
「同じ時代に生きられるというのはね、尊いです」
「私たちは皆、絢子さまの存在を常に思いながら生きてきましたけど、それでも、同じ時間をあれ以上過ごすことはできなかった。想い人や、大事な人たちと、同じ時間に存在できるということは、どれくらい尊いことか」
「まだお若いから、あなたはどうか、悔いのないように」
私には辻村さんや歩美のような特別な力はありませんが、目の前の人たちとのご縁を大切にして、きちんと想いを言葉にしながら、日々を過ごしていきたい、そう思います。
優しい勇気をもらえる一冊、おすすめです(*^^*)
ツナグ第1作目の作品紹介はこちら。
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