おはようございます。
今日はこちらの本をご紹介します。
『ツナグ』辻村深月*生者と死者の再会の先に見える景色とは?
作品情報
著者:辻村 深月
出版社:新潮社
発売日:2010年10月29日
本の長さ:316ページ
あらすじ
一生でたった一人と一度だけ、死者との再会を叶えてくれる『使者(ツナグ)』。使者のもとには、様々な過去を抱えた依頼人が訪れる。突然死したアイドルを心の支えにしていたOL、最期まで母にがん告知ができなかった息子、失った親友に罪悪感を抱く女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員。使者の仲介によって一度限りの再会を果たす生者と死者。そこに待っているのはどんな感情なのか?心揺さぶられる連作長編小説。
いい意味での裏切り
『芦田愛菜ちゃんも大好き』でおなじみの大人気作家・辻村深月さんですが、私が初めて読んだ辻村さんの作品が、こちらのツナグでした。
最初、帯文などを読んで、「死者と再会して、生前に果たせなかった約束を果たして感動する感じのお話なのかな?」と思って読み始めました。
テレビドラマによくありそうな、温かな感動ストーリーを期待して読んだわけです。
ところが、そんなに甘くはなかった・・・(笑)
「なんて残酷なの・・・・」と言葉を失うような、読み終えた後も心が苦しくなるような再会をしてしまう人物もいました。
結構、後を引きましたね。
すごく考えさせられました。
こういう、いい意味での裏切りが、この作品の味だと思います。
心理描写がとてもリアル。
確かにこういう関係性の二人だとこういう会話になるよな、こういう結果になるよな、とどれも納得だし、一度限りの再会で、生者が悔いていることのすべてを修復できるわけではない。
ストーリーを綺麗にまとめようとしない、生者と死者いずれも美化しない感じが好きでした。
使者《ツナグ》の葛藤
生者と死者を仲介する使者というと、すごい特殊能力を持つ者という感じがしますが、実は使者《歩美》は平凡な男子高生。
彼は、長年に渡り使者として生きてきた先代の祖母から、使者の役目を引き継いだばかりです。
最終章は歩美目線のエピソードとなっており、”再会”の様子を目の当たりにして、「死者との再会を望むなんて、生者の傲慢かもしれない」と使者の役目に葛藤する様子も見られます。
これってもしかしたら、辻村さん自身も作品を書かれている際に葛藤されたことなのかなぁと思ったりしました。
生者にとっては「美しい思い出」となっているかもしれないものに、新たな彩を足すことは、本当に必要なのか。
生者は「美しい思い出」としていても、死者がどう思っているかはわからない。
でもきっと、このお話に出てきた人たちにとっては、この先生きていくためにその再会が必要だったんだなと思えます。
つらくても、なんとか一歩踏み出すために。
あなたがもう一度会いたい人は誰ですか?
私がツナグに依頼できるなら誰に会いたいかなぁと考えました。
ありがたいことに、今のところ強く願う相手はいません。
大切な人たちが今日も元気に生きてくれていることに感謝です。
でも30年、40年先となると、どうだろう。
夫はまだまだ元気でいてくれていると信じたいですが・・・先のことはわかりません。
我が家は子どもがいないので、夫に先立たれた後の自分の人生について、ぼんやり考えることはよくあります。(夫の方が年上なので・・・)
それが突然の別れであろうと、覚悟を持って迎えた別れであろうと、もしももう一度会えるのなら会いたいと、きっと願うでしょうね。
だって、絶対に寂しいと思っているはずだから。
大切な人との別れは、いつか必ずやってくる。
だから一緒にいられる今、この一瞬を、大切に守りたい。
そんな風に思わせてくれました。
万人におすすめできる一冊です。
ちなみに2012年に映画化もされていて、松坂桃李さんや樹木希林さんはじめ豪華なキャスト陣のようなので、また見てみたいです。
ツナグ第二作目の作品紹介はこちら。
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