こんにちは、たれみみです(^^)/
今日はこちらの本を紹介します。
『家族じまい』桜木紫乃*家族との心地よい付き合い方を見つけるきっかけに
作品情報
著者:桜木 紫乃
出版社:集英社
発売日:2020年6月5日(文庫版:2023年6月20日)
本の長さ:280ページ(文庫版:320ページ)
あらすじ
理容師としてパートで働く智代は、子どもたちが巣立った家で夫と2人平穏に暮らしていた。ある日、妹の乃理から「ママがね、ボケちゃったみたいなんだよ」と電話が入る。横暴な父に振り回され続け、両親と距離を置いてきた智代は、両親とどう向き合うべきか悩む。認知症の母に戸惑う姉妹とそれぞれの家族関係を描いた長編小説。
それぞれ「見えている世界」の中で生きる家族
桜木紫乃さんの著書を読むのは、今回が初めて。
本書は『家族じまい』というタイトルが、なんとも切なげで、気になって手に取りました。
そして「母が認知症になった家族のお話」ということで、自分もいずれ直面するかもしれない未来がどんな風なのか・・・と興味を持ったことがきっかけで読み進めました。
全体の雰囲気は、明るくも暗くもなく、いい意味で淡々とした感じ。
劇的な出来事が起きるわけでもなく、「老い」という問題に直面した家族の戸惑いと少しずつ変容する日常が描かれています。
おもしろかったのは、章ごとに別々の登場人物の視点で描かれているところ。
認知症になった母の娘(姉妹)目線だけでなく、その家族を取り巻く人目線のお話も入ってます。
当事者家族の中で感じることと、一定の距離がある人が俯瞰して感じること。
その距離感や温度差からくる「見えている世界」の違い。
ああ、結局人って自分の「見えている世界」の中でしか生きられないんだよなぁ・・・
「見えている世界」の中で精一杯生きるしかないんだよなぁ・・・
としみじみ納得させられる。
それぞれの登場人物に共感するところもあれば、共感できないところもある。
それがすごくリアルで、想像が掻き立てられ、
もしも、認知症になったのが自分の親だったら、夫だったら、夫の親だったら、姉だったら、自分自身だったら・・・・
そんなことがぐるぐると頭の中をめぐりました。
「老い」による輝きが悲壮感を浄化する
文章は全体的にさらりとしていて、美しい。
特に認知症になった母・サトミを表現する文章が好きでした。
母の歴史は、彼女が覚えていることのなかだけに存在していて、父にも娘にもわからない。
母はこの先、誰と共有することも叶わない別の物語をもってこの世をまっとうするのだろう。
もうとっくに越したであろう五十歳の頃に戻れる心の自由さが、彼女の瞳を輝かせている。
サトミが今どのあたりに心を旅させているのかは分からない。この一家が置かれた状況に巻き込まれながら、紀和は状況に合っているともずれているとも言い難いサトミの言葉を何度か胸奥で繰り返した。
もちろん認知症になったサトミ本人も一緒に暮らす家族も苦労しているわけですが、
少女に戻ったかのようなサトミの目の輝きや無邪気さが、悲壮感を感じさせず、物語をキラキラさせてくれている。
不思議なんですよ。
サトミの「老い」によって、先が見えない不安やじわじわ迫りくる絶望を感じるのに、サトミの「老い」による無邪気さで空気が浄化されてしまう。
冷たさとあたたかさが同居する読み心地。
この家族が向かう先がハッピーエンドなのかバッドエンドなのか。
それは、読み手側の受け取り方に委ねられている気がしました。
「家族仕舞い」をして心地よい付き合い方を見つける
著者はインタビューで『家族じまい』についてこう語っています。
私が思う家族じまいって何だろうと考えていくと、単純に家族を整理するとか、家族の誰かと縁を切るとかではなく、改めて振り返ることではないかと。だとしたら、私自身が経てきた、何てことのない家族の日常を書くだけで、「しまう」形に向かっていくのではないか。終わりを意味する「終う」ではなく、ものごとをたたんだり片付けたりする「仕舞う」ですね。そういう気持ちで書き始めました。
家族の分だけ物語があって、さらに家族の人数分だけ枝分かれした物語がある。
家族に見せる顔と、それ以外で見せる顔がある。
この物語の姉妹も、親との付き合い方が全然違うんですよね。
どちらが正解でも不正解でもない。
親子や姉妹の関係も近づいたり離れたり、「家族」の枠組みに収まってみたり離れてみたり・・・
本書は「家族との心地よい付き合い方」を教えてくれます。
親の終活、二世帯同居、老老介護・・・・
本書の家族が抱える問題は、今まさに、多くの家庭が抱える悩みだと思います。
きっとその悩みの渦中にある人々は、目の前の問題に対処することに精一杯。
改めて振り返ることなんて難しいかもしれない。
でも本書を読めば「家族との心地よい付き合い方」を考えるきっかけになるでしょう。
家族関係に悩んでいる方にぜひ読んでもらいたい一冊です(*^^*)
集英社による、刊行記念 桜木紫乃さんインタビュー全文はこちら。
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