こんにちは、たれみみです(^^)/
今日はこちらの本を紹介します。
『本心』平野啓一郎*最新のAI/VR技術で母を再生した男の愛の物語
作品情報
著者:平野 啓一郎
出版社:文藝春秋
発売日:2021年5月26日
本の長さ:449ページ
あらすじ
自分の「死」の時期を選ぶことのできる“自由死”が合法化された2040年代の日本。朔也は最新のAI/VR技術を使って生前そっくりの母を再生させ、“自由死”を選んだ母の〈本心〉を探ろうとする。母の〈本心〉を探る中で出会った母の友人や、母のかつての交際相手を通じて、朔也の知らなかった母の顔が見えてくる。そして母が隠していた衝撃の事実を知った朔也は―。生きる意味を問いかける長編小説。
母は“自由死”を本当に“選んだ”のか?
朔也の母は生前に“自由死”を望みますが、朔也は母の望みが本心だったのかどうかを疑います。
ロスジェネ時代をシングルマザーとして生きてきた母は、“自分は社会の迷惑になる存在だ”と思わされていたのではないか。
自由死を“選んだ”のではなく、“選ぶべきと社会に思わされた”のではないか。
物語の中には、“自由死”について肯定派と否定派の人がいます。
否定派の人の中にこんな発言がありました。
「~好き好んで“自由死”する人なんていないんだし、一旦認めてしまったら、今みたいに、弱い立場の人たちへのプレッシャーになるでしょう?国は財政難で、もう余裕はないんだって。貧しい人たちは、足ることを知って、“自由死”を受け容れるべきなんですか?恐ろしい考え方です。~僕だって、たまたま、~で社会の役に立っている、と思われているし、税金もたくさん納めてますけど、そうじゃなかったら、お荷物扱いですよ。優生思想じゃないですか、それは。」
貧困層、病者、障害者、高齢者・・・様々な弱い立場の人たちが、自分の本心とは別のプレッシャーによって、“自由死”を選ばざるを得ない状況に陥ることへの懸念ですね。
高齢化が進み、医療費がどんどんと膨らんでいる日本。
いつか“自由死”が合法化される未来が来てもおかしくありません。
海外ではすでに安楽死が合法化されている国もたくさんありますからね。
「死」の一瞬前には最愛の人に手を握っていてほしい
私個人としては、“自由死”は認めるべきではない・・・
というか、認められるような社会であってほしくない、という気持ちがあります。
誰かが「死」を決断し、実行することを、他者が肯定できる理由なんてないと思っています。
でも、朔也の母や“自由死”を一部肯定的な人の気持ちには、共感できるものもありました。
「お母さんはね、朔也と一緒にいる時が、一番幸せなの。だから、死ぬ時は、朔也に看取ってほしいのよ。朔也と一緒の時の自分で死にたいの。他の人と一緒の時の自分じゃなくて。」
「人間は、一人では生きていけない。だけど、死は、自分一人で引き受けるしかないと思われている。僕は違うと思います。死こそ、他者と共有されるべきじゃないか。生きている人は、死にゆく人を一人で死なせてはいけない。一緒に死を分かち合うべきです。──そうして、自分が死ぬ時には、誰かに手を握ってもらい、やはり死を分かち合ってもらう。さもなくば、死はあまりに恐怖です。」
ひとりで死んでいくことへの恐怖。
その恐怖を迎える時には、最愛の人に手を握っていてほしい。
だから、自分の「死」の時期を選んで、その時を迎えたい。
そんな気持ちはとても共感できます。
かといって、“自由死”を積極的には肯定できませんが・・・
もし私が愛する人から“自由死”を望んでいると告げられたら、きっと朔也のように混乱し、受け容れられないんじゃないかと思いますし。
“本心”とは一体何なのか?
この物語を読みながら、朔也と同じように「(朔也の)母の“本心”が知りたい」と思う反面、
「そもそも、“本心”って何?」
「何をもって“本心”と呼べるのだろう?」
という疑問も同時に浮かび上がりました。
それは私自身が、ときに自分の本心すらわからなくなる瞬間があるからです。
人生における様々な選択においても、本心から良いと思ったのか、利害関係を打算したのか、諦めを伴うものなのか、誰かの期待に応えた結果なのか、それらすべてなのか・・・
いろんな感情が絡まって、一つの決断を下していることが往々にしてあるんですね。
だから、本人にもわかりきっていない“本心”というものを、他者が知り得ることは、到底不可能なのではないかとも思います。
でも、だからって、「相手の本心なんてわかりっこない!」と最初からわかろうともしない態度をとってしまっては、人間関係は上手くいかないですよね。
わからないからこそ、わかろうとし続ける。
それが大切なのだと、教えられました。
“最愛の人の死”を通じて、生きる意味を問う本作。
近未来の日本におけるAI/VR技術を一足早く堪能している気分にも浸れます。
ぜひお読みください(^^♪
著者公式の『本心』特設サイトはこちらから。
コメント