『エミリの小さな包丁』森沢明夫*おじいちゃんの優しい手料理にほっこり

本のはなし

最近の私は、Kindle unlimitedにドハマりしています。

こちらの本も、それきっかけで読んだ一冊。

最初は装丁が可愛くて惹かれ読み出したのですが、ストーリーもすごく良くて、ここ最近読んだ中で一番好きな物語と言っても過言ではないほど。

残念ながら、9月はもう読み放題から外れてしまいましたが、忘れないうちに心に残ったことをとどめておこうと思います。

『エミリの小さな包丁』森沢明夫*おじいちゃんの優しい手料理にほっこり

作品情報

著者:森沢 明夫

出版社:角川書店

発行年:2016年4月27日

あらすじ

都会で暮らす《エミリ》は、恋人に振られ、仕事もお金も失い、途方に暮れてしまいます。

そんなエミリが訪ねたのは、海が綺麗な田舎・龍浦で暮らす祖父《大三》の家でした。

15年ぶりに会う大三は、口下手で、必要なこと以外は口にしません。

なんとも不思議な共同生活に、最初は戸惑うエミリ。

しかし、大三の淡々とした小さな暮らしぶりや丁寧な手料理、そして龍浦の人々との交流を通じて、身も心も癒され、少しずつ元気を取り戻していくのでした。

大三じいちゃん、最高!

この物語でなんといっても魅力的なのが、大三さんのお人柄です。

自然と共存した、飾らない暮らしぶり。

職人気質で、黙々と風鈴作りをする傍ら、自分で釣った魚を丁寧に捌いて調理し、なんともおいしそうな料理たちを作ってしまう。

数人の仲間たちと、持ちつ持たれつの関係。

足るを知る、とは大三さんの生き方のことのようです。

15年も会っていない孫が、突然身を寄せさせてほしいとお願いしてきたら、普通びっくりしますよね。

でも大三さんは、あれこれ言及することなく、すんなりと受け入れてくれるのです。

「この家にいるあいだは、好きにしなさい」

「エミリは何をしてもいいし、何もしなくてもいい」

多くを語らなくても、エミリの気持ちをわかってくれている。

何も要求せず、あるがままのエミリを受け入れ、そっと寄り添ってくれるのです。

田舎のじいちゃん好きな私の心は、がっちりと掴まれてしまいました(笑)

帰る場所があることの温かさ

田舎って、いいですよね。

私も、子供のころは海が近くにあったので、龍浦の風景には懐かしくなりました。

波音に耳を澄ませ、海風に吹かれながら、のんびり歩く。

あぁ、想像しただけで、癒されます。

生きていると、いろんな苦しいことがあります。

大切なことは、まず自分自身が、自分の過去も現在も、あるがままを受け入れること。

人目を気にせず、自分が心地よい暮らしをすること。

自分のペースで歩いてみて、疲れた時は休んだらいい。

「ただいま」と帰れる場所がある。

それはとても幸せなことで、それだけで、一歩踏み出す勇気になる。

この物語は、そんなことを教えてくれました。

森沢さんの言葉選びが大好き

今回初めての森沢さん作品でしたが、比喩表現や言葉選びがとても好きでした。

浜辺は弓なりに延びていて、ブルートパーズを溶かしたような光る海をそっと抱いていた。

ざぶんざぶんと浅瀬で砕けては、クリームソーダみたいな真っ白な泡を作っている。

家の前の港は、薄いパイナップル色の夕日に染まりつつあった。

どれも優しく温かい情景が目に浮かび、読んでいて心地よかったです。

そして、大三さんの料理にちなんだ6つの章題も素敵!

すべて読み終えた後に章題を眺めていると、大三さんのおいしそうな料理たちが思い出され、それだけで幸せな気分になれます。

本当に、おなかいっぱい、ほっこりした読了感。

初めて読んだ森沢さん作品が、この物語でよかったなぁと思いました。

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